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ニントゥアン原発計画、日本は事実上撤退の方針
<写真:www.nguoi-viet.com>
日本はベトナム中南部のニントゥアン省で計画されていた原子力発電所「ニントゥアン2」プロジェクトから、事実上撤退する方針を固めた。これはロイター通信のインタビューにおいて、駐ベトナム日本大使である伊藤直樹氏が明らかにしたものであり、同大使は「ベトナム側が求める完成期限が日本側にとって極めて厳しい」と説明している。
ニントゥアン2は、ベトナム政府による電力供給力強化の一環として構想された大型原発計画である。政府のロードマップでは、同省に建設予定の「ニントゥアン1」と「ニントゥアン2」の原子力発電所を、それぞれ約2〜3.2ギガワット規模で2035年までに稼働させる計画が掲げられていた。
原発計画自体は2009年にベトナム国会で正式に承認され、「ニントゥアン1」はロシア、「ニントゥアン2」は日本がそれぞれのパートナーとして選定された。日本側では、国内電力会社など13社が出資した輸出支援コンソーシアム「国際原子力開発(JINED)」や日本原子力発電が、技術支援やフィージビリティスタディを担う枠組みが構想されていた。
しかし、2011年の東京電力福島第一原発事故を契機として、原子力の安全性、建設コスト、巨額投資による財政負担に対する懸念が高まり、ベトナム国会は2016年11月にニントゥアン原発計画の中止を決議した。
当時のベトナム政府は「経済情勢を踏まえ、原発建設は得策ではない」と説明し、原子力導入方針は一旦白紙に戻された。その後も、原発予定地周辺の土地収用は凍結されたままとなり、地元住民からは不安の声が相次いでいた。
2024年には、地域当局や専門家の間で「凍結された原発計画の扱い方」について公の議論が再び交わされるようになった。こうした中、ベトナム政府はエネルギーミックス見直しの一環として、2024年に原子力発電の再導入方針を発表し、当初の協力国であるロシアおよび日本に対し、改めて「ニントゥアン1・2」プロジェクトへの協力を打診したとされる。
伊藤大使によれば、日本側はベトナム側と複数回にわたり協議を行ったが、2025年11月の時点で「現行スケジュールでは日本として対応は困難」と判断し、正式に撤退の意向を伝達したという。
当初の計画では、「ニントゥアン1」と「ニントゥアン2」について、それぞれ2025年9月および12月に国際パートナーと合意文書を締結する予定とされていた。しかし、ロシア側が担当する「ニントゥアン1」についても依然として正式合意には至っておらず、両プロジェクトの進行は依然として不透明なままである。
日本が撤退を決定した主な理由としては「期限の厳しさ」が挙げられているが、その背後には日本の原子力産業が抱える構造的課題も存在している。
福島事故以降、日本国内の原発は長期間停止し、再稼働には厳しい審査が必要となった。その結果、熟練技術者や作業員の確保が困難になり、企業は国内安全対策と人材再構築に資源を集中せざるを得なくなっている。
これにより、ベトナムのような大型海外プロジェクトへの関心は限定的であったと、関係者は指摘している。
今回の撤退は、良好とされてきた日越関係においても小さくない影響を及ぼす可能性がある。
たとえば、ハノイ市は2026年半ばから市中心部へのガソリンバイク乗り入れを禁止する方針を示しており、これに対して二輪市場の最大手であるホンダを含む日本企業が強い懸念を表明している。
2025年7月に方針が発表されたのち、ホンダのベトナム国内販売は一時的に急減し、日本政府は「雇用や投資に深刻な影響が生じ得る」として、同年9月に在ベトナム日本大使館を通じてベトナム政府に書簡を送ったが、現時点で正式な回答は得られていないとされている。
ベトナムにとって、原子力は急速に拡大する電力需要に対応するための重要な選択肢の1つである。同国はサムスンやアップルなど多国籍企業の製造拠点となっており、工業化の進展と中間層の拡大により電力需要が急増している。
近年では干ばつや台風といった極端気象の影響もあり、工業団地を中心とする広域停電が頻発しており、政府は再生可能エネルギーやガス火力に加えて、原子力の可能性も含めて多様な電源確保を進めている。
ただし、電力価格の設定や規制の不透明さ、送電網への接続遅延などが再エネ・ガス火力プロジェクトにも影響を及ぼしており、多くの計画で遅延が生じているのが実情である。
今回の日本の撤退により「ニントゥアン2」プロジェクトの見通しは一旦不透明となったが、フランス、韓国、アメリカなどの企業や投資家が引き続き関心を示しており、ベトナム政府は今後のパートナー選定に向けて選択肢を模索している段階にある。
伊藤大使は今回の撤退について「あくまで現行スケジュールにおける判断であり、日本は将来的に小型モジュール炉(SMR)など新型の原子力技術によって、ベトナムと再び協力する可能性を探っていく」との意向を示している。
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