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高い需要と少ない利用者、ベトナムの老人ホームの実態

2022年08月22日(月)15時13分 公開
高い需要と少ない利用者、ベトナムの老人ホームの実態

<写真:VnExpress>

 

ベトナムでは急速に進む高齢化に向けて老人ホームの設立が進められているが、様々な理由から入居者数が非常に少なく苦境に立たされている。

 

ハノイ市のディエン・ホン老人ホームのホアン・ティ・トゥ・ガン副所長によると、同センターでは月750万ドン(約4万4000円)の市場価格を設定しているが、4分の1近くが空き室となっており1度も使用されていない。

 

同センターが8年前にオープンして以来、受け入れた高齢者は約300人に過ぎない。同副所長によると、他の多くのセンターも開所してから入所者がほとんどおらず同様の状態となっている。

 

統計局が2021年に行った人口変化と家族計画に関する調査によると、国内の60歳以上の高齢者は1258万人で、430万人は一人暮らしか孫と一緒に暮らしており、支援が必要な状態である。

 

国連人口基金はベトナムが2040年に高齢化社会に突入すると発表しており、今後数年間は高齢者向けの介護サービスや制度に大きな負担がかかる恐れがある。

 

ガン副所長によると、保守的な考え方が主流であった昔とは違い、ベトナム人は老人ホームでの生活を受け入れるようにはなってきている。

 

以前は親を老人ホームへ入居させると親不孝だと近所や親戚から悪口を言われ、数日後に退去手続きをしに戻ってくる子供が多かったというが、高齢の親を施設に預けるのは親不孝という社会的な固定観念は徐々になくなりつつある。

 

高齢者介護サービスへの需要は高いものの、多くの高齢者が介護費用を捻出できず、経済的な負担を子供に掛けたくないという理由で利用することができずにいる。

 

多くの人は400万ドン〜500万ドン(約2万3480〜2万9350円)、中には600万ドン(約3万5220円)の年金をもらっているが、老人ホームを利用するためには十分な金額ではない。

 

トゥエットさん(71)の子供は幼い子どもを育てており、600万~700万ドン(約3万5220〜4万1090円)の少ない収入で子どもを養っていることを知っているため、「彼らの負担になりたくない」と話す。

 

ハノイ在住のクアンさんは「68歳の父を老人ホームに入れたいが、私の経済状況を考えると夢物語でしかない」として、介護付き有料老人ホームは余裕のある裕福な家庭でしか利用できないことを指摘する。

 

人口家族計画のデータによると、年金などの安定した収入源がある高齢者は約27%に過ぎず、残りの73%は仕事を続けるか子どもに頼らざるを得ない。

 

2020年12月時点でベトナムには約80の有料老人ホームがあり、ハノイ市には20施設、ホーチミン市には10施設がある。全国63省・市のうち、高齢者向けの専門施設を持つのは32省・市に過ぎず、ほとんどが基本的なケアしか提供していない。

 

その大きな理由のひとつに、投資家や人材の不足といった問題が挙げられる。

 

全国に5つの施設を開設して500人以上の高齢者を介護しているBach Nien Thien Duc社のグエン・トゥアン・ゴック代表は、ほとんどの人がまだ介護を職業として考えておらず、ベトナムではこの分野の専門教育が不足していると指摘する。

 

介護職は重労働で給料が安いため、医療を修めた人は民間のクリニックや病院で働くか、多くの収入が得られる海外で働くことを選択する。

 

同代表によると、実際の数字は把握していないが、応募者数より退職者数の方が多いのは確かで、出勤初日に辞めるような人も多いという。

 

老人ホームでの仕事はストレスが多く、高齢者は年齢的に気性が荒いことが多い。高齢者の7割は手厚い介護が必要で手間と時間のかかる仕事である。

 

また、老人ホームのモデルは確立されてはいるが、運営コストが非常に高く利益が少ないことが足枷となって普及するに至っていない。

 

保健省は長年にわたって高齢者介護施設の人材育成を目的とした政策を数多く打ち出しているが、効果はなく人材の不足は慢性的なままとなっている。

 

ホーチミン市大学医療センターの老人医療部門長であるタン・ハー・ゴック・テェ博士は、医療制度が人口動態の変化に追いついていないと指摘する。

 

同市には老年科のある病院が少なく老年科専用の施設もない、ハノイ市には公立の老年科病院が1つあるだけである。

 

様々な理由から親を老人ホームに入居させることに抵抗がある人も依然として多い。

 

チーさん(80)の自宅には毎週末、パーキンソン病の妻の理学療法を行うために末っ子の息子が訪れる。チーさん夫妻は多くの病気を抱えており、子供たちは専門的な訓練を受けていない介護者を雇うことに抵抗があるという。

 

また、チーさん夫妻にとって1時間30万ドン(約1760円)で理学療法士を雇って自宅で治療を行うことは非常に高額で手を出すことができない。

 

チーさんは「私は心臓病や他の多くの病気も患っている。子供たちに支えられて何とか生きている。子供たちも大きくなったので今日死んでも幸せだ。子供たちの負担にはなりたくない」と話す。

 

ホーチミン市のリンさんは有料老人ホームのサービスに不満はないが、各入居者に合わせた様々なプログラムがなければ、両親を入居させる選択はしないと話す。


8年間で4つの老人ホームを経営してきた経験を持つディエン・ホン老人ホームのガン副所長によると、老人ホームは他の事業に比べて収益性が低く、多くの投資家がディエンホンと協力して老人ホームを開設しようとコンタクトを取るが、財政難を知るとすぐに計画を白紙に戻すという。

 

老人ホームの質を向上させて人気を集めるには、より長い時間と長期的な経営計画が必要なのである。

 

同副所長はベトナムに業界団体のようなものができて施設やサービスの品質に関する基準が設けられ、国民が老人ホームをより信頼してより多くの人々が利用するようになることを期待する。

 

 

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※ポステオリジナルニュースは各ニュースソースを参考に編集・制作しています。


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